秋のある日の“逢魔ヶ刻”



 ソレは、いつも公園にいた。
 誰を待っているふうでもなく、ただ其処にいるだけだ。
 ずっと、気になっていた。
 いったい誰を待っているのか? と。
 初めてその姿を見かけた時から、2週間後。
 <勇気>をその手に、薄暗くなった公園で問い掛けた。
「いったい誰を待っているの?」
 その声に驚いて、ビクンッ、と体が硬直したのを見た。
 何にそこまで驚いたのか、不思議に思った。
 ソレは、無言のままでじっとこちらを見つめ返している。
 だからもう一度、問い掛けた。
「誰を待っているの?」
 ソレは、自分に投げかけられていた問いだと確かめたかったらしい。
 同じ科白を繰り返した声に、にこっとした笑みを浮かべた。
 とても嬉しそうで、幸せそうな顔。でも、どこか哀しい。
 ゆっくりと、ソレの口が動いた。
 小さな声で問いの返事を返してきた。
 聞き取れなかった、だからもう一度。
 ソレの口を見つめて、返事を聞いた。
 ―――君を待っていた。僕が見える人間を―――
 何の事がわからなかった、首を傾げる。
 嬉しそうな笑みを浮かべたまま、ソレは右手を差し出した。
 ―――遊ぼう……一緒に。僕と―――
 笑顔と、いつも一人だった。ソレ。
「うん」
 だって、いつも淋しそうだったから。
 その日から、いつもソレと一緒にいた。
 遠くで、誰かが泣いている。
 同じようにして、誰かが叫んでいた。
 誰かはもう―――――、わからないけど。
 ソレはいつも一緒にいる。
 今日も。明日も。明後日も。それからもずっと。永遠に―――――


 公園で待っている<ソレ>が、二つになった。
 また、誰かを待っている。淋しそうではなく、二人で楽しそうに。
 誰かが見つけてくれるまで。



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